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6月, 2025の投稿を表示しています

チートデイは本当に必要? 〜重度の肥満と“食べたい気持ち”との上手なつき合い方〜

「ダイエット中だけど、今日は好きなものを食べていい日にしよう!」 そんな“ チートデイ(cheat day) ”という言葉、聞いたことはありますか? 先日、患者さんから、チートデイを作ってもいいですか?というご質問がありました。 我慢ばかりのダイエットを続けるのはつらいもの。チートデイは、時々食事制限をゆるめて、心と代謝をリセットしようという考えに基づいた方法です。 でも、 BMI35〜40以上の重度肥満 がある方にとって、チートデイは 慎重に扱う必要があります 。体のしくみや心のクセを理解しながら、うまく対処していくことが大切です。 ■ 体は「飢餓」にとても敏感 ダイエットを続けていると、体は「これ以上体重が減らないように」と守ろうとします。その時に関わるのが レプチン というホルモンです。 レプチンは脂肪から分泌され、「おなかがいっぱいですよ」と脳に伝える信号ですが、**重度肥満の人ではレプチンが効きにくくなっている(レプチン抵抗性)**ため、満腹感を感じにくくなっています。 そんなときにチートデイで高カロリー食をとっても、脳が満足せず、 食べすぎを引き起こしやすくなります。 ■ チートデイが裏目に出ることも 重度肥満の方は、インスリンや代謝に問題を抱えていることが多く、 チートデイの高糖質・高脂質な食事が血糖や脂肪の急上昇を招く ことがあります。 血糖スパイク → 疲れ・空腹感・気分の落ち込み インスリン急増 → 脂肪の蓄積 「また食べたい」気持ちが強くなり、 リバウンドのきっかけになる そのため、「息抜き」のつもりが、かえってダイエット継続を妨げてしまうこともあるのです。 ■ 食べたくなったとき、どうすれば? 食欲は、 本当の「空腹」ではなく、気分や習慣、環境に影響されて起こることが多い ものです。そんなときには、次のような方法で気持ちを落ち着けることができます。 🌿 食欲をそらすためのアイデア 温かいお茶をゆっくり飲む (胃が落ち着きます) 歯みがきをする (口の中がスッキリすると、食欲が収まりやすい) 5分だけ散歩する・軽い運動をする (食欲ホルモンを抑える効果も) 手を動かす(塗り絵・編み物・スマホゲームでもOK) 「今の気持ち」をメモに書いてみる (ストレス・退屈・...

「病気の診断」は“推理”に似ている? ~『19番目のカルテ』に寄せ

テレビドラマ『19番目のカルテ』では、総合診療医が患者さんの話や表情、検査の結果などあらゆる情報から病気の本質を突き止めていきます。 あのドラマを見ていて、「診断って、こんなに複雑なんだ」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。 実際の医療現場でも、診断とは「その時点で一番可能性の高い病気を推定すること」です。 症状が出始めたばかりの時期には、どの病気なのか判断が難しいこともあり、すべての検査で異常が出ないことも少なくありません。 「病気ではない」と言い切るのではなく、「今の段階では決め手がないけれど、これとこれの可能性がある」という視点で診察しています。 たとえば、咳が長引いているとき、最初は「風邪でしょう」と判断されても、経過を見ていく中で「百日咳」や「感冒後咳嗽(風邪の後に気道の過敏性が残って咳が続く状態)」と診断が変わることがあります。 百日咳は今、成人にも増えており、風邪のように見えて実は感染症で、抗菌薬が必要になることもあります。 診断の変更は“間違い”ではなく、“新しい情報に基づいた修正”です。 また、まれではあるけれど見逃してはいけない重大な病気、たとえば肺炎や喘息、心疾患などの可能性が少しでもある場合には、念のために血液検査やレントゲン、心電図などを提案することもあります。 可能性が低いからこそ「見逃してはいけない」と考えているのです。 『19番目のカルテ』の主人公のように、医師は診察を“その場限りのもの”ではなく、“次につながる手がかり”と捉えています。 そのため、症状が続いたり変化した場合は、再度診てもらうことをためらわずにいてください。 診断とは一度で終わるものではなく、経過をたどって見えてくる「ストーリー」でもあるのです。

帯状疱疹ワクチン、私は必要? ──「水ぼうそう未経験者」と「帯状疱疹経験者」の疑問に答えます

  ポイント先取り 水ぼうそうにかかった覚えがなくても、ほとんどの日本人は体内にウイルスを持っています。 水ぼうそうワクチンを受けただけの人でも、帯状疱疹は起こり得ます。 一度帯状疱疹を経験した人でも再発することがあります。 50 歳以上なら、基本的に帯状疱疹ワクチン(シングリックス)の接種が推奨されます。   1.そもそも帯状疱疹とは? 帯状疱疹(たいじょうほうしん)は、子どもの頃にかかった 水ぼうそう(水痘) のウイルスが、何十年も後になって 再活性化 することで起こる皮膚の病気です。ピリピリした痛みや赤い水ぶくれが帯状に現れ、 後遺症として長引く神経痛(帯状疱疹後神経痛:PHN)が大きな悩み になります。 2.「水ぼうそうにかかったことがない」人はワクチン不要? 2-1.実はかかった記憶がなくても感染している可能性が高い 日本では水ぼうそうの定期接種が始まる前(2014 年以前)に生まれた多くの人が 幼少期に自然感染 しています。熱も軽く終わると記憶に残らないまま抗体だけが残るケースも珍しくありません。 2-2.水痘ワクチンを受けた人もウイルスは潜伏 水痘ワクチンは「弱毒化」された 生ワクチン 。感染力を落としただけで、ウイルスは体内に潜伏し 帯状疱疹の原因になり得ます 。自然感染より頻度は低いとはいえ、年齢とともにリスクは上昇します。 3.「一度帯状疱疹にかかった」人はもう大丈夫? 再発率は5〜10% 。特に 高齢者・糖尿病・免疫低下 のある方ではもっと高まります。 一度罹った部位と反対側に出ることも珍しくありません。 米国の大規模研究では 50 歳以上の帯状疱疹既往者にシングリックスを打つと再発率が約 85%低下 しました。 ポイント :帯状疱疹後 数ヶ月から1年ほど経ち、皮膚と神経の炎症が落ち着いたら接種を検討しましょう。 4.よくある Q&A Q A ワクチンを打ったら絶対に帯状疱疹になりませんか? 100%ではありませんが、重症化や後遺症(PHN)を防ぐ効果も高いとされています。 副反応が心配です。 発熱や倦怠感は 1~3 日で治まるケースが大半です。鎮痛解熱剤で対応できます。 他のワクチンと同時接種は...

抗生剤はいつ飲むべき?〜正しく使って体を守るために〜

「風邪っぽいから抗生剤もらおうかな…」その判断、ちょっと待ってください!間違った使い方が将来の健康に影響するかもしれません。 「熱があるから抗生剤をください」「風邪なので抗生剤を飲みたいです」——日々の診療でも、こうしたご相談をよくいただきます。 しかし、抗生剤(抗生物質)は、 「いつでも使えばよい薬」ではありません 。むしろ、 必要のないときに使うことで、副作用や薬が効かなくなる(薬剤耐性)という問題が起こります 。 抗生剤が「効く」病気と「効かない」病気 抗生剤は、 細菌 によって起こる感染症に対して効果があります。一方で、 ウイルス が原因の病気には効果がありません。 つまり、 一般的な風邪(ウイルス性)には抗生剤は不要 です。むしろ、風邪に抗生剤を使うと、副作用や耐性菌のリスクが増えるだけで、治りが早くなるわけではありません。 抗生剤が「必要な場合」のサイン 抗生剤が必要かどうかは、 診察・検査で医師が判断 しますが、患者さんご自身でも参考にできる目安があります。 発熱が長引く(3日以上) 黄色や緑の痰が続く のどの痛みが強く、膿が見える 尿のにごりや痛みがある 耳の痛み、膿のような耳だれ これらは 細菌感染の可能性がある症状 であり、必要に応じて抗生剤を使う場合があります。 飲み方にも注意! 抗生剤を出された場合は、以下の点にも注意しましょう。 医師の指示通りに飲み切る (途中でやめない) 飲み忘れた場合の対応を確認しておく 他の人の薬を飲まない、余った薬を再利用しない 中途半端に抗生剤を使うと、**「菌が中途半端に残る」→「薬が効かない菌が増える」**という、薬剤耐性の原因になります。 まとめ 抗生剤は、「使うべきときに、正しく使う」ことがとても大切です。 不安な症状があるときには、自己判断せず、お早めに医療機関を受診してください。